一、錦秋の候

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 坂の多い町で育った。  周りは山で囲まれていた。東京まで電車で二時間のこの町は、何もかもが中途半端だった。  上り列車は一時間に三本もあればいい方で、平日の昼間なんて一本乗り遅れたら一時間は待つことになる。  町の中心部にある駅には、観光客向けのお土産屋と立ち食いそば屋が立ち並ぶ。  店先に並んでいるのは漬け物やらおまんじゅうやら、とにかく年寄りが喜びそうなものばかりで駅ビルなんて夢の夢。  これでもあたしが小学生の頃に比べれば、改装されて綺麗になっただけマシなのだ。  市内に一軒だけある古ぼけたデパートには雑誌に載っているようなブランドなど置いてあるわけもなく、あたしはいつも理想と現実ってやつにため息をついていた。  相沢みふゆ、十七歳。  名前からもわかる通り、あたしは冬に生まれた。  いわゆる盆地に位置するこの町は、夏はうだるように暑く冬は凍えるほどに寒い。  都内ではうっすらと積もる程度の雪も、こちらでは十センチを超えることもある。  あたしが生まれた日も、朝からぼたん雪が降りしきっていたという。
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