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冬はそれほど好きではないけれど、いい思い出は他の三つの季節に比べ、格段に多かった。
クリスマス、お正月、誕生日。
毎月続くイベントは、こんなちっぽけな町に閉じ込められたあたしにとって数少ない楽しみだった。
だけどあたしは来年の二月で十八になり、そのうえ次の月には女子高生という肩書きさえ奪われてしまう。
冬なんて、来なければいい。
初めてそう思った。
けれど年月はいつだって残酷で、あたしたちの言うことなんて聞いちゃくれない。
秋はいつの間にか辺鄙なこの街にも訪れていた。
柔らかな風が、頬をくすぐる朝。
あたしはクリーニング店のカバーから取り外したばかりのセーラー服の袖口を気にしながら、金色の小麦が揺れる畦道を歩いていた。
いつまで経っても慣れない、石油のような臭い。
「おはよう、みふゆ」
穏やかな声に振り返ると、そこには同じクラスの喜多川桜が立っていた。
肩口で切りそろえられた髪が、秋の光を艶やかに反射する。
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