一、錦秋の候

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 背の高い桜が着ると、野暮ったい紺色のセーラー服でさえも様になる。綺麗に結ばれた緑のスカーフが、彼女の胸で誇らしげに揺れている。 「おはよう」 「良かった。みふゆが夏服じゃなくて」  桜は大げさにため息をついて見せた。あたしは頬を膨らませる。 「失礼だなあ、いくらあたしでも衣替えくらい覚えてるよ」 「あら。去年の六月、冬服で来たのは誰だったかしら」  彼女の言葉で更にぱんぱんになったその頬を、桜が指でつつく。気の抜けたような音と共に、それは一瞬にしてしぼんだ。  鈴を鳴らすように笑う桜の横を、同じ制服の女の子たちが通り過ぎてゆく。 「桜の、意地悪」  あたしは小さく呟くと、桜の頬に手を伸ばした。  笑いながら避ける彼女の、楽しげな笑い声が鼓膜を柔らかくくすぐった。  あたしは、桜との他愛もない会話やじゃれあいが好きだった。  彼女はおっとりとした外見とはうらはらに、頭の回転がすこぶる良い。  ポンポンと飛び出す言葉の応酬が、こんなに心地いいのは桜くらいだろう。
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