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そもそも往復四時間以上もかけて髪を切りに行くっていう発想が、あたしにはこれっぽっちもなかった。
あたしの硬くて太い髪は、お母さんがいつも白髪染めに行く「タジマ美容室」のおばちゃんに切ってもらっている。
雑誌の切り抜きを持って行ってこうして欲しい、ああして欲しいって言ってみても、鏡に映る姿はいつだって垢抜けない。
おばちゃんは気を使ってか、似合う似合うとほめてくれるけれど、あたしは負けた気持ちでいっぱいになる。
桜の通う美容室なら、あたしもちょっとは可愛くなれるのだろうか。
「みふゆ、さっきからぼーっとしてる」
桜の声に、あたしは我に返る。
気がつくともう少しであたしたちの教室を通り過ぎるところだった。
「ごめん、考えごとしてた」
不審そうな表情を浮かべる桜に笑いかけようとして、だけど。
「相沢、喜多川、もうすぐホームルーム始まるぞ」
桜の肩越しに見える紺のスーツに、あたしは中途半端に唇を歪めたまま固まった。
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