一、錦秋の候

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「おはようございます、小池先生」  桜の声に、にっと白い歯を見せる姿はまだ大学生でも通用しそうなほど童顔で。度の弱いセルフレームの眼鏡で、なんとか教師としての威厳を保っている。  小池寿人(ひさと)、二十七歳。  あたしたちのクラスの担任で、そして。 「ほら、相沢もちゃんと挨拶しなきゃダメだろ」 「……おはよう、ございます」  挨拶ひとつにいちいち赤面しちゃうくらい気になる、あたしの想い人。  うん、わかってる。  先生と生徒なんてありふれた組み合わせだけど、叶うのはほんの一部なんだってことくらい。  だけどあたしは告白とか付き合うとか、そんな先のことは考えたくないくらい、小池先生――普段はみんなヒサって呼んでる――のことが、好きだった。 「はい、よく出来ました。じゃあホームルーム始めるぞー」  そういうと、ヒサは前のドアを開けて教室に入って行った。  あたしと桜も目を見合わせて苦笑いした後で、後ろのドアからそっと中に入り、各々の席につく。
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