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桜は、あたしがヒサのことを好きだって気づいてるみたい。
だけど、口には出さない。
あたしも、話さない。
何だって話せる友達だって思ってるけど、ヒサのことだけは別。
叶わない恋だからこそ、言葉にしたら消えてしまいそうで怖かった。
だからあたしは一人、ヒサへの思いを温め続ける。ずっと、ずっと。
冗談を言った後で少しだけ照れくさそうに笑う目尻のしわや、チョークを握る長くて細い指。
少し茶色がかった柔らかそうな髪の一本一本まで、あたしはいつも彼を観察し、脳みそに刻みつける。
この気持ちを忘れないように。
秋の日差しが、三つ編みにした頭をちりちりと照らす。
土ぼこりの舞うグラウンド。
お揃いの白い体操服にくすんだ赤のハーフパンツの女の子たちが、黙々とトラックを走る姿はなんだか少しシュールで。
あたしはこういう時、笑いを堪えるのに必死だ。
「笑っちゃいけないと思うと、余計おかしくなるのよね」
横から声をかけてきたのはやっぱり桜で。あたしはたまらず吹き出した。
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