一、錦秋の候

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 桜は、あたしがヒサのことを好きだって気づいてるみたい。  だけど、口には出さない。  あたしも、話さない。  何だって話せる友達だって思ってるけど、ヒサのことだけは別。  叶わない恋だからこそ、言葉にしたら消えてしまいそうで怖かった。  だからあたしは一人、ヒサへの思いを温め続ける。ずっと、ずっと。  冗談を言った後で少しだけ照れくさそうに笑う目尻のしわや、チョークを握る長くて細い指。  少し茶色がかった柔らかそうな髪の一本一本まで、あたしはいつも彼を観察し、脳みそに刻みつける。  この気持ちを忘れないように。  秋の日差しが、三つ編みにした頭をちりちりと照らす。  土ぼこりの舞うグラウンド。  お揃いの白い体操服にくすんだ赤のハーフパンツの女の子たちが、黙々とトラックを走る姿はなんだか少しシュールで。  あたしはこういう時、笑いを堪えるのに必死だ。 「笑っちゃいけないと思うと、余計おかしくなるのよね」  横から声をかけてきたのはやっぱり桜で。あたしはたまらず吹き出した。
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