『アゲハ』

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「……アゲハ」 私は今……観光名所で撮った三人が並んで写る、一番楽しかった頃の写真を眺めているのよ。 ……アゲハ。 貴女はあの時、どんな想いでいたのかしら。 私達が愛した人は本当に酷い男だったけれど……今も貴女は、本当の揚羽蝶みたいに彼の陰を追っているのかしら。 ・・・アゲハ? 私の肩に触れた冷たい手。 ――アゲハ!? 「お帰りなさい。アゲハ」 良かった。 戻って来たのね。 アゲハ―― 彼も・・・一緒だったんだ。 *********** 二階建ての真新しく真っ白いアパートの一室。 家賃の滞納金を取り立てに来た回収業者の男が、一人暮しをしていた二十四歳の女性の遺体を発見した。 その手には写真立てがしっかりと両手で握られ、親指の爪の間から流れ出ていた血が……ヒビ割れた硝子板の透き間から入り込んでいた。 写真の中ではその女性を真ん中にして、同じ年頃の二人の男女が海をバックに弾けるような笑顔で、彼女の首を絞めてフザケていた。 その写真の中で首を絞められている女性と・・・遺体になった彼女は同一人物だったが ……とても醜い苦しそうな彼女の死に顔は……写真の中と全く同じ表情だった。
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