9人が本棚に入れています
本棚に追加
白球に懸ける想いは
――変わらなかったはず。
色んな人達の想いを乗せた打球は・・・無情にも最後の時を知らせた。
マウンドでは歓喜の円陣が組まれ……グランドに散らばったままの宝石達は・・・
うずくまり
熱い雫をその土に染み込ませている。
あの打球が抜けていれば
様々な『――あの時』が錯綜する中
無感情な声が宝石達の時を遮った。
先程までのスタンドの熱気も
氷水を浴びたかのように一瞬に冷え切り
それぞれを現実へと引き戻し
そして……その場所から散々と姿を消した。
疎らに色んな感情が残ったグランドでは
気持ちの伝わらない総評が続いていた。
そんな社交辞令な言葉が
――今……
熱すぎる魂の塊達に必要なのだろうか。
破裂しそうな熱い魂を
今すぐ解き放つよう願うが……
その時は永遠に来ないような気がして
俺はその場を後にした。
夏に躍動する若い魂の抜け殻は
一瞬の命を燃やす蝉を想わせた。
今を懸命に生きる美しさ。
今の俺に出来るのだろうか。
……俺はまだ……
土の中で何者になるかも解らずにいる。
――そう――
光りが射すあの場所へ飛び立つまでは。
最初のコメントを投稿しよう!