蝉の逝く末

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白球に懸ける想いは ――変わらなかったはず。 色んな人達の想いを乗せた打球は・・・無情にも最後の時を知らせた。 マウンドでは歓喜の円陣が組まれ……グランドに散らばったままの宝石達は・・・ うずくまり 熱い雫をその土に染み込ませている。 あの打球が抜けていれば 様々な『――あの時』が錯綜する中 無感情な声が宝石達の時を遮った。 先程までのスタンドの熱気も 氷水を浴びたかのように一瞬に冷え切り それぞれを現実へと引き戻し そして……その場所から散々と姿を消した。 疎らに色んな感情が残ったグランドでは 気持ちの伝わらない総評が続いていた。 そんな社交辞令な言葉が ――今…… 熱すぎる魂の塊達に必要なのだろうか。 破裂しそうな熱い魂を 今すぐ解き放つよう願うが…… その時は永遠に来ないような気がして 俺はその場を後にした。 夏に躍動する若い魂の抜け殻は 一瞬の命を燃やす蝉を想わせた。 今を懸命に生きる美しさ。 今の俺に出来るのだろうか。 ……俺はまだ…… 土の中で何者になるかも解らずにいる。 ――そう―― 光りが射すあの場所へ飛び立つまでは。image=269169606.jpg
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