……七夕の夜に……  『君の笑顔が見れた事』

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   私は ……人を殺した……。 殺すつもりなんてなかったけど・・・結果的に死んで“くれた"。 何回も浮気ばかりを繰り返す夫を……殺す事に『成功』したのだ――。 後はただ・・・悲劇の妻を演じきれば、私は無罪だ。 頭に刺さったナイフに付いた指紋はしっかり拭き取った。 監視カメラなんて何処にもないこのアパートに、目撃者は今のところいないハズだ。 後は私の泣き叫ぶ演技で、この事故を隣人に証明させればそれで済む。 浮気の事は隣に住む前田夫妻も知っている。 ただ一つ……問題は…… 嬉し過ぎて笑ってしまう事だ。 取り敢えず……頭に刺さったままのナイフを抜き取った方が良いのか悩む。 そんな事を気にしていたら誰かが階段を上がってくる音が聞こえ……私は慌てて泣き叫ぶ演技に入った。 「――イヤッ!! あなた――どうして!?!?」 まだ温かい血が流れる額の辺りを撫で、彼の血がベットリ付いたままの手で……顔を覆った……。 「エッ!? ――うわっ・・・ど……どうしたんですか!?」 そう馬鹿みたいな台詞で問い掛けてきたのは、隣に住む前田耕作だった。 私は更に演技を続け、彼の胸に顔を埋め耕作に聞こえるかどうかの小さな声で囁いた。 「ウッ……うわぁーッ!!・・・この人が……は、花束をね…………うっうっ………」 「お…奥さん!? 救急車は呼んだんですか?? は――早くしないと――死んでしまいますよ!!!!」 お前は当たり前の台詞しか出てこないのか?  と、思いながら顔をあげた時には・・・自然と涙が溢れていた。 心臓の鼓動が止まっているコイツを改めて確認出来た事が――嬉しくて堪らなかっただけだけど。 馬鹿な隣人が救急車を呼び、涙と血に濡れた悲劇の妻を演じきる事が取り敢えずは出来た。 警察も後から病院に駆け付け、私は事故の状況を鳴咽を漏らし涙ながらに説明した。 現時点で・・・誰も私を疑っている様子はなかった。 私は――自由への翼を手に入れた。
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