第11章―少年と逃走―

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少年はとても手馴れた感じで動き、僕は何も出来ずに短剣を当てられている。 「ちょ……たんま……」 僕は両手を挙げる。 少年は僕の顔を見ると、静かに短剣を下ろす。 「君は……確か……フェイア……」 少年は掴んだ手を離した。 僕はその手をさする。 「何の用?」 少年は短剣をしまいながら聞いた。 「君と話がしたいなぁと……」 「僕は話すことなんてないから」 少年は僕に背を向ける。 僕はとっさに少年の腕を掴んだ。 「じゃあさ……名前だけでも!」 少年は僕を睨む。 それでも僕は離さない。 少年は溜め息をついた。 「僕は……フォート……」 「フォート?」 「うん。これでいいだろ? じゃあね」 少年は歩き出す。 僕は少年の腕を掴んだまま、一緒に歩く。 「ねぇ……離してよ。付いてくる気?」 「だめかな?」 「だめって言っても付いて来るんだろ……もう勝手にすれば」 少年は呆れたように言った。 僕は喜び、少年の後をついていく。 勿論手は離さない。 離して逃げられたらせっかくの機会が台無しになるから。 僕は鼻歌を歌いながら少年と街を歩いた。
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