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胸にそっと手をあて、自分を感じ取る。静かな心音は俺が生きていることの証。
「シオ~ンっ」
背後から聞こえた声に俺は振り向く。声の主を確認した俺は手を挙げて足を止める。
「よぉ、恋華」
そう呼んだ女の子は、腰までのばした灰色の髪を春風に遊ばせ走ってくる。
「はぁ、はぁ……シオン待っててくれてもいいじゃなーい!」
恋華は髪を整えながら文句を垂らす。
「あぁ、悪い。でも、恋華? もう少し早く支度をすればいいんじゃないか??」
「だってぇ~……。今日は新学期だよ!? ちゃんとオシャレしなくちゃ!」
恋華は満面の笑みで桃色の雨の中、俺に近づいてくる。
「新学期か……。よく俺と知徳も進級できたもんだな……」
「あぁ、そのこと? よっしーが色々やってくれたみたいだよ??」
「……なるほどな」
納得してしまう俺もどうかと思うが、田淵ならできると心から思ってしまう。
「……頭が上がらないな…」
「ふふっ、そーだねっ」
恋華の笑みを見ながら、俺は恋華の頭に留まっている桃色の雨をそっと取り除く。
「……シオン? ……お母さん達は平気なの?」
今度は打って変わって神妙な顔になり、俺を見つめる恋華。
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