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第3話~既知感~
「ん~…!」
あまりの暑さと眩しさに思わず飛び起きる。
屋根…とは銘うってあるものの、あくまで部屋を覆っている程度の面積では陽光までは遮れないらしい。
既に日が昇りきり、あちこちからは五月蝿い蝉の大合唱。
暑い+五月蝿い+空腹=ウザい。これは自然界が生み出した絶対法則だと思うんだ、俺は。
いや、それよか問題なのは…。
「お前は誰だ…」
「クゥ~ン?」
種類なんてのは知らないが白と灰の毛並みを持つ大型犬が我が家の玄関に鎮座していた。
首輪のないところを見るとどうやら野良のようだが……その割には毛並みは美しい。
まぁ、モフッとした毛皮ではこの暑さは堪えるのか、犬は気怠げに俺を見ると…。
「ワフッ!」
いや、そう言われても俺犬語なんて知らんがな。いったいチミは俺にどうしろと?
「飯ならやらんぞ」
「クゥ~ン…ワフッ、ワウッ!」
試しにコミュニケーションを試みる。
「なに、涼しい場所に行きたいだと?」
「ワンッ!」
「そうか…たしかにお前の毛皮だと暑いだろうしなぁ」
「……何してるの…?」
「うひゃッ!?」
び、びびった…!
誰もいないと思ってたら、いつの間にか俺の背後には七海がビニール袋を片手に無表情で立っていたのだ。
「ょ、よう七海!」
「驚かれるのは…心外」
そりゃ驚くに決まってるだろ!!俺の背後には数十cm程度の空間と壁しかねぇのにお前はどうやって俺の背後を取ったッ!?
「さては七海…俺の貞操を…!?」
「意味が分からない。…私は貴方が寂しく犬と語り合っている間に、ここに立っただけ…」
「寂しいって言うな!」
独り暮らしを始めると独り言が増えるんだよ!意味なくペットに話かけたり、PCの動作に悪態ついたり……いやいや、そうではなく。
「ごほん!何か用か?」
「食事。持ってきた…」
「まじかッ!?」
彼女は片手に下げていたビニール袋を軽く持ち上げて見せ、そこからタッパーを3つ程取り出し始めた。
願ってもない。起き抜けにわざわざ川まで行く手間が省けただけでなく、食料を確保出来ないという可能性もなくなったのだから、今から小躍りでも披露したい気分である。
しかし…。
「多い…」
並べられたタッパー。それに詰め込まれた様々な料理は軽く見積もっても2人前はあるんじゃなかろーか。結局…。
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