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「………おい」
「ん?」
殺人的に強い日差しのせいなのか、吹き出た汗を目一杯吸い取った服を撫でながら、一度空を仰ぎ見る。あぁ良い天気だ……いやいや、違う。
俺が言いたいのはそんな事ではない。
「……何でこのクソ暑い中俺は畑仕事をやらされてんだ?」
それだ。
食事を終えた後、有無を言わさず沙織に連行され、たどり着いたのは視界いっぱいに広がる畑。そして渡されたのは麦藁帽子と軍手と長靴。
明らかにおかしいだろ?
流れ的にというか……とにかくおかしいと思うんだよ俺は。
「仕方ないじゃん!小梅婆ちゃんが腰悪くしちゃったんだからさ」
「だ・か・ら!なぜ俺までやらなきゃならんのだ!?」
「暇そうだったから」
生憎、お前が思うほど俺も暇ではない。
今晩のおかずを探さなきゃならんだろ?部屋の掃除しなきゃならんだろ?家の改修しなきゃならんだろ?ほら、予定はいっぱいだ。
貧乏暇なし。暇がなければ慈善作業は願い下げである。……とは言うものの。
何だかんだ言いつつ、しっかり手伝ってる辺り、俺はかなりのお人好しなのかもしれない。
凝った背中を解そうと背伸びを一つ。次いで、七海の姿を探す。
「……機械みたいに働く奴だな」
というか、なぜに七海まで付き合ってくれてるのかが謎だ。
「ワンッ!!」
「あ~はいはい。お前も付き合ってくれてたんだっけな」
汚れた土塗れの軍手で野良の頭をガシガシと撫でると、嬉しそうに尻尾を振る。
こいつもこいつで何故にここまで俺に懐いているのかが謎である。
「さて、と…」
もう一頑張りしようかと腰を落とした時。
「……あの~」
「ん?」
田んぼの脇を通る畦道。そこに、一人の女性がいた。
胸くらいまで伸ばした栗色の髪は、綺麗にウェーブがかかり彼女の整った顔立ちを更に引き立てている。
多分、俺よりは5、6歳は年上であろう女性は、申し訳なさそうな表情で近づいてくると…コップに注がれたお茶を差し出してきた。
「ごめんなさい。うちのお祖母ちゃんが腰を痛めたばっかりに…」
「お祖母ちゃん…?」
どういう事だろうか?一人首を傾げながら考え始めるが…。
「美咲さ~ん!」
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