prologue.

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騒ぎたてる蝉達の大合唱…。 照りつける強い夏の日差し。 ここは、都心から9駅離れた田舎町だった。 駅から見える風景には、ビルなどの高層建造物は一つもなく…。 これは退屈な毎日になりそうだ、と黒髪の少年は溜め息混じりに歩き出した。 なんだってこんなド田舎に来ちまったんだろう…。 そんな今更なことを考え、駅を出る。 やはり、というか流石というべきか…。 そこには、申し訳程度に舗装された田舎道が続いていた。 「………あのクソ親父…」 この場にいない父親の顔を想像して吐き捨てるように呟く。 事の発端は、3週間前。 なんの通告もなしに、彼は通っていた学園に転校届を出され、こんなド田舎の村にある、小さな学校に転入させられてしまったのだ。 無論、そうしたのは彼の父親なのだが…。 だが、父曰わく…。 「気にするな、息子よ!」 あの時ほど本気で誰かを殺したいと思ったことはねぇな…。なんて苛々しながら、父から貰った地図を開く。 そこに書かれていたのは…。 『まっすぐ進め、パパより(ハート)』 あぁ、駄目だ。 いきなり荼毘に伏してしまいそうだ。――ストレスで。 「ん………追伸?」 『あ、お前が住む場所はパパの可愛い妹の家だから安心しなさい』 「地図じゃねぇのかよっ!」 思わず地図…というより手紙を地面に叩き付けて叫んでしまう。 あぁ、本当にこのままストレスで死にそうだ。 「……はぁ。とりあえず、歩くか」 自分に言い聞かせるようにして、歩き出す。 聞こえるのは耳障りな蝉達の大合唱。 照りつけるのは強い夏の日差し。 気付いたのは、空気のおいしさ。 何となく…。 この村での生活も、悪くないのかもしれないと…そう思った。
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