8人が本棚に入れています
本棚に追加
第2話~悲惨な始まり~
それは、今にも崩れそうな…。
朽ち果てた家の残骸だった。
壁はボロボロ。
所々には穴が開き、天井も完全に崩れ落ちている。
それは、誰が見ても人が長年住んでいないと分かるような佇まいだった。
「……ここで、間違い…ないんだよな?」
「う、うん…。この辺りで日向っていう苗字の家はここだけだから…」
「でも…親父はここだって」
「…何かの間違いじゃないの?」
七海が表情を変えずに、そう呟いた。
だが、それを確かめようにも、残念な事に親父に確認は取れないのだ。
親父の奴は確定住所はおろか携帯すら持っていないのだから…。
「くそっ…どうすっかなぁ」
頭を抱えるも、名案など浮かぶはずもない。
野宿でも構わないんだが、藪蚊が飛び回っている中で寝るのは少々抵抗がある。
というか全力で遠慮したいくらいだ。
「……ここに住んでた人は?」
半ばヤケクソ気味に沙織に尋ねる。
だが、返ってきた答えは予想を遥かに上回る物だった。
「詳しくは知らないんだけど……村の人達の話じゃあ夜逃げしたとか」
「おいおい…」
寄りにもよって夜逃げかよ…。
それじゃあ近くに引っ越した可能性は0じゃねぇか。
いよいよ以てどうしたもんかなぁ…。
そう思案し始めた時、突然。
「私の家に来る?」
「は?」
短く、何でもない事のように七海が呟いた。
何を考えているのか。
今日会ったばかりの男を家に泊めるなんて、有り得ない事だ。
しかし、七海は無表情のままでその真意は伺い知れない。
「……うちは両親が放任主義だから…問題ない」
「いやいやいやいや!流石にそれはマズいだろ?いくら親御さんが放任主義としても、どこの馬の骨とも知れない男を泊めたりしないだろ!」
「問題ない」
「いや、でもだな…」
「問題ない」
尚も繰り返す七海。
だが、その好意は受け取れない。
かといって住む家はない。
なんか踏んだり蹴ったりだ…。
まさか親父の奴分かってて俺をこんな場所に送ったんじゃなかろーか?
「………まぁ、なんとかなるか…」
自分に言い聞かせるように呟き、朽ち果てた荒ら屋に足を踏み入れる。
……と、部屋の一角。
正面からは見えなかったが、6畳間ほどの部屋だけ、屋根が残っている部屋があることに気付いた。
最初のコメントを投稿しよう!