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ここなら、住むだけなら何とかなりそうだな…。
試しに畳の上に土足で上がるが。
バキャ!という音と、やけに湿った感触を足の下に感じた。
……畳は駄目か。
となると、レジャーシートを使えばいいだろう。
幸い、ガスはコンロがあるから、それでなんとかなるとして…。
「……後は食い物と風呂だな」
レトルト系はあまり持ってきてないから、保ってせいぜい1週間だ。
「さっち~んっ!」
正面…玄関だったであろう場所から沙織に呼ばれ、急いで戻る。
「なんだ?」
「いや、どうするの?七海ん家に厄介になる?」
「…問題ない」
「…あ~、いや。奥に一応使えそうな部屋が一つだけあったから、そこに住むわ」
「でも食事とかお風呂は?」
「食事は……まぁ山菜とか川魚とか採れば何とかなるだろ。風呂は川で身体洗えばいいし」
文明の薫りはまったくしない生活だが、人に迷惑をかけるよりは遥かにマシと言える。
「つー訳で悪いな七海。気持ちだけ貰っとくわ」
「……そう」
「七海…?」
そう呟く七海の顔が僅かに曇ったように見えたのは、夕暮れが見せた幻だったろうか?
だが、瞬きをした瞬間に七海の表情はいつも通りの無表情に戻っていた。
「まぁ、さっちんがそう言うなら私達は構わないけど……大丈夫なの?」
「なんとかなるだろ。世の中意外とそんなもんだしな」
「言うね~♪でも、困った事があったら遠慮なく言ってよね」
「ああ。頼りにしてるぜ?」
「あは♪お姉ちゃんに任せなさい!」
そう言うと、沙織は七海を引き連れて踵を返し、じゃーねー!なんて言いながら、帰って行った。
2人の背中を見送った後、これから暮らす事になる我が家を見上げる。
あ~…ちくしょう。
やっぱ何回見てもただの荒ら屋だよなぁ。
自然と漏れる溜め息。
最悪の暮らしが待ってるのは想像に難くない。
だが、最悪という事は、これ以上は落ちないと言うことでもある。
「……まぁ、なんとかなるだろ」
笑ってれば人間何とかなる。
誰の言葉だったか忘れたが、ごもっともだ。
なら笑っていよう。
空を見上げる。
そこには、強く輝く一番星。
ほら、いつでも満点の星空が見れると思えばプラスだ。
そう、自分に言い聞かせて…。
俺は我が家へと入って行った。
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