2/2
前へ
/31ページ
次へ
母の旧姓は広瀬だ。母方の親戚とは顔を合わせた記憶はほとんどない。母は、私の祖母の兄の家に養女として引き取られて、短大を卒業後まもなく父と結婚したという話は、なんとなく母から聞いている。養女として育て短大まで卒業させてくれた広瀬の家と母が疎遠になっているのは、なにかしら不自然な気がしていたがその理由を強いて両親に尋ねたことはなかった。  母の養父母はすでに他界している。兄の式に出席するのは伯母と叔母である。二人とも結婚して姓は変わっている。父が作ってくれたフォトアルバムに乳飲み子の私を抱いている見知らぬ若い女性の写真があるが、その人が弥生叔母さんであると母に教えられてはいるが、物心ついてから会ったことがない。おば二人には兄の式当日にほぼ初対面となる。 「そんなのお母さんに直接話せば済むことじゃない。電話したの?」 「したさ。」 「で、何て言ってたの?」 「お前も子を持つ親になったら解るよ。特に私くらいの年齢になるとね。自分の存在に関する将来とか今までのことに対して責任をとらなきゃって感じるんだよ。だから、お前には結婚してもらいたかったし、五月さんと弥生さんにお前に式に来てもらいたかったの。だってさ。」 「へぇ。そんなこと言ったんだ。随分曖昧な理由ね。お兄ちゃんつっこまなかったわけ?」 「その後は式の準備の話しを一方的に話しまくられて電話を切られた。何か隠しているんじゃないかなぁ。」 「隠しているって。健康上のこととか?」 「そういうことも考えられるね。」  兄は珈琲カップを手に取って、カップをくちびるにつけた。珈琲の苦味を味わうと 「智子からもきいてみてくれないか。」  と言った。 「ちょっと心配ではあるけれど。でもさぁ、こんな話しをするために、お兄ちゃん吉祥寺まで来たの?やっぱり電話で十分だったわよ。私、無理して会社あがったんだからね。だからフルーツパフェおごってよね。」 「はいはいわかったよ。でも智子お母さんのこと心配しているのか?」 「心配してるわよ。私もお母さんに電話してみるよ。」  その夜は兄のおごりのフルーツパフェを食べて、兄と別れた。そして、兄との約束を正確には果たさないことになるとは、その時の私は思わなかった。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加