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 扉が閉まりエレベーターは上昇を始めた。エレベーターの上昇の加速はほとんど感じない。私達は何も感じることなく次の階へ上っていく。今日の新郎新婦は既に式場のある五階で待っている。新郎新婦の両親達もだ。  案内板が二階から三階に着いたことを示し当然同じタイミングで四階に着くことを示すはずが、三階に着いたことを表示したままなのだ。扉は開かない。エレベーターが二階を過ぎた辺りで止まってしまった様だ。 「止まっちまったんじゃないのか?」  操作板の側にいた男性が声を出した。操作板を操作したがエレベーターが反応しないようだ。その声をきっかけに室内は少し緊張した空気が漂った。その男性は管理センターに連絡した。管理センターとはすぐに連絡はつき、復旧の作業にかかるという返事が返ってきた。同乗の人達はざわめいている。  そんなざわめきの中から私を呼ぶ声がした。私の後ろにいた弥生叔母さんが話しかけてきたのだ。 「すっかり立派になって、あなたとは以前会ったことがあるのよ。まだ、生れたばかりの時、五ヶ月だったかしら。私があなたを抱いた写真をまだ大切にしてますよ。」  さっき顔を合わせたばかりだ、だから初めましてと言うわけにはいかない。 「赤ん坊の私を抱いているおばさまの写真は私も持っています。私、おばさまに似てますね。」 「まあ。でも、あなたと似ているのはあの時の私で、今のわたしじゃないでしょ?美しいあなたにそんなことを言ってもらうのは、うれしいわ。私のことは知っていたのね。いままでなかなかお会いする機会が無かったから。でも、それは仕方がなかったのかしらね。」  私には兄の結婚が決まるまで存在しないも同然の人だったのだが、似ているのは、同じDNAを持っているからであって不思議なことではない。 「あなたのお母さんは大事な場面にエレベーターが止まる星の下に生れついているみたいね。そしてお父さんも。」  弥生叔母さんは微笑んでいた。  これから兄の式が始まろうとしている時に、エレベーターが故障で止まるのは縁起の良いことではないだろう。このトラブルが両親と結び付くことによって、何故弥生叔母さんを微笑ませているのだろうか。
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