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私が言葉を選んで何も言わずにいると、弥生叔母さんは
「智子さんはお父さんとお母さんが恋に落ちた切っ掛けって何だったか知っている?」
と言った。私は両親から二人が出会ってから結婚するまでのことを詳しく聞いたことはない。言われてみれば確かに、二人の馴れ初めがどんなことだったのかは興味がわいてくることではある。
「知りません。聞いたことありませんから。」
「あなたのお父さんとお母さんはエレベーターに閉じ込められたことがあるの。今の私達みたいに。これから私達はどれ位このままの状態におかれてしまうか分からないけれど、あなたのご両親は六時間閉じ込められたのよ、見ず知らずの二人が二人っきりでね。デパートのエレベーターだった。名前こそ出なかったけれど新聞の記事になったりして、大騒ぎだったのよ。」
新聞の記事になるほどの事件を両親は私に話していない。兄も知らないだろう。
「本当なんですか?」
初対面の様な相手の言葉をたやすく信じることはできない。
「本当よ。」
「じゃあ、なんで今まで私に話さなかったんですかね?」
「そう、少し罪の意識を感じていたのかもしれないわね。あなたのお母さんにはあなたのお父さんとは別に婚約者がいたの、でもお母さんはお父さんと結ばれた。」
罪の意識?父とは別の婚約者?
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