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「今は、そんな話をするべきじゃないわ。今日は宏幸さんの結婚式じゃない。おめでたい日よ。」  と言ったのは安代叔母さんだった。父の妹だ。  弥生叔母さんはそれでも微笑をたやすことなく 「おめでたい日だからこそ、お話ししたほうがいいんじゃないかしら。今日のこの日を迎えられたのも、今から三十九年前のエレベーターの故障があったからなんですから。」  と言った。 「確かにそうです。でも、弥生さん。別に場所を設けてお話ししたらどうでしょうか。といってもあなたは言ってしまった。智子のさざ波だった心は抑えることは出来ないでしょう。こんな状況だし。智子には知る権利はあると思います。私達は四十年近くの間、多くを語らずにきました。それは、兄と兄嫁がそう望んでいたからです。兄一郎と兄嫁の貴子さんの個人的事柄が含まれていますから。」  私のさざ波だった心ねぇ。私の好奇心は目を覚ましてしまっている。 「安代さん、あなたは私が軽率だったとおっしゃりたいのかしら。私は軽率だったとは思っていないのですけれども。安代さん、そして智子さんにとって予期せぬ私の発言だったかもしれませんが、このエレベーターの故障だって予期せぬことじゃありませんか、三十九年前のエレベーターの故障も予期せぬ出来事。予期せぬことは運命の神様の軽率さを装った演出なのじゃないですかね。ですから、この場で私は一郎さんと貴子さんの個人的事柄につながることを口にしてしまった。これも、運命の神様の仕業と考えてはいかがでしょうか。」  両親の個人的事柄。吉祥寺の喫茶店で兄と会った夜のことを思い出した。両親達が知っている私達の知らない歴史について。
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