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携帯電話の着信を知らせるイルミネーションが光ったのは昼の休憩の時だった。イルミネーションの色は普段あまり光らない色だった。兄の携帯電話からだ。
「今日会って話したいことがある。会えないか?」
「電話で済ませられないの?」
「長い話しになるかもしれないし、電話で話すのは軽すぎる。」
「そんなに重い話し?」
「お母さんのことだ。」
結婚直前にして母親に関する話しとは、兄は実はマザーコンプレックスの持ち主だったのかと今さらながら思ってしまった。兄は言葉を続けた。
「吉祥寺まで俺が行くから、何時なら大丈夫?」
私は19時ならば都合が良いと答えた。
兄は西武新宿線沿線に住んでいる。吉祥寺を指定したのは、私のアパートの最寄駅なので、兄も一応気を遣っている。
兄は三週間後に結婚する。
兄は半年に及ぶ婚活の末、婚約した。正確には母の強引なまでの願いを聞き入れたかたちで婚活を始めた。それに、長男として義務感の様なものを感じたのだろうし、40歳にもうすぐ手がとどく年齢でもあった。こうなると間に合わせで結婚相手を決めた様でもあり、相手の女性の自尊心を傷付けてしまいかねないが、こういう場合日本には便利な言葉があるではないか。
「ご縁だったのですよ。」
この言葉で兄は自分を肯定しているとも思えるが、実際結納まで交わしたのだ。兄には愛情に類似した感情が芽生えているのだろう。
兄と兄の婚約者の組み合わせは、釣り合っていると思った。兄の婚約者とは一度私達兄妹の実家で会っているが、年収、年齢、身長、雰囲気はぴったりだったし。血液型、星座も吉と出ているのだろう。
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