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私は二年前に一人暮らしを始めた。その半年後に今の恋人と同棲を始めたのだが。一人暮らしをしたいという話を切り出した時、母は、智子は良いわねと言ったのを思い出した。三十路を目の前にした娘が一人暮らしをしたところで、珍しいことではない。母が若かった頃にもそういう人はいただろう。母は私の年齢の時には父と結婚していたはずだから、家族の世話に拘束されない私の自由の身でいられることに対する「良いわね」だったのか。
「お母さんって幸せなのかな?」
「えっ、幸せねぇ。幸せというか、少なくとも今は満足しているんじゃないのか。俺の結婚も決まっているし。」
という兄の返事が返ってきた。
「満足ね。」
と相槌を打つと。
「で、智子はどう思う。お母さんが俺にお見合いを強引にさせた理由。」
「なんで、そんなこと今さら気にするの?」
「式場とかいろんな事が決まって、一段落ついて、昨日の夜に気が付いたんだよ。お母さんが幸せなのかどうかも関係あるだろうけど、何かあったんじゃないかと思うんだよ。」
「何かって何?」
「それがよく判らないから、今日直接話したかったんだ。」
考えられる事情。両親の仲は悪くはなかった。むしろ仲は良いほうだろう。二年前まで実家にいた私の目にはそう見えた。その後は毎日顔を合わせる訳ではないが、父との関係上での愚痴らしい連絡は母から受けたことはない。
「それに式の招待客なんだけど、お母さんが広瀬家で世話になった二人を招待しろと何度も確認の連絡があったんだ。お母さんは広瀬家の養女だって言っていただろう。だけど、俺は広瀬の人に会ったことないんだよ。お母さんの親戚だからいいかなぁと思ったけれど、俺にとっては疎遠な人達だから。」
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