4人が本棚に入れています
本棚に追加
実はね。
彼女はそう言い、わざと焦らすように間をおいた。
これ、サボテンなのよ。
と、とても大事なことを打ち明けるように僕に教えてくれた。
僕はサボテンが食べれると知らなかった。もちろん、彼女の思いつきで料理しただけで本当は食用ではないのかもしれないが。
しかし、僕らはそれを深く味わった。噛むと肉汁のようにじわっと中から旨味の汁が溢れ出した。
あんなに棘の生えているサボテンからは想像出来ない味だった。
彼女は待ってました、みたいにまるで種明かしをするかのように口を開いた。
『物事は見た目じゃないの。大切なのは中身。サボテンは見た目がよくないから味は駄目だなんて思ったら大間違いなんだから』
彼女は得意そうに言った。
彼女の言うサボテンとは一体何を示す言葉なのだろう? 彼女自身のことなのか? けれど、彼女は見た目も十分魅力的に思えた。
『それは爬虫類のことを言ってるの?』僕は訪ねた。
彼女は驚いた顔をしてみた。
『そう言う風に切り替えすのね』そう言って微笑んだ。
『もちろん、爬虫類も見た目はちょっと気味悪いけどみんな良い子たちだよ。それは分かってる。でももう少し、時間が必要かも』
そう言い彼女は悪戯好きな子供のようにちらりと舌を見せた。
外見で判断出来ないもの。
それは例えばどのようなものだろう。
彼女が曰わく、サボテンもその一つだ。見た目はとげとげしいが味は絶品だった。
もしかしたら、その逆もあるだろう。美味しそうに見えるが中身は苦くてとても食べれないものが。
彼女が言いたいのはそのことなのだろうか?
僕はしばし、そんな事を考えていた。
とたん、彼女がその思考を止めるかのように僕の口をその唇で塞いだ。
もしかしたら、そこには何も理由なんてないのかもしれない。別に理由など見いださなくていいではないか。
彼女と美味しい料理を食べて、熱い接吻をする。それで十分だ、今のところ。
止んだ、と思った雨はさらに激しさを増して、雨戸を強く叩きつけていた。
どうやら今日は彼女を帰せそうにないようだ。
最初のコメントを投稿しよう!