ユミの物語

7/8
前へ
/16ページ
次へ
カフェから出た後、私達はぶらぶらと歩いた。 途中、ペットショップに寄った。 まだ産まれたばかり、とも思われる犬の赤ちゃんを見て、可愛いね、とお互いに笑い合った。 彼は店員の方に許しをもらって、小さな犬を抱かせてもらっていた。 よしよし、と言ってまるで自分の赤ちゃんのようぬ扱っている。 その彼の姿を遠目に私は微笑ましく思った。 「ほら、ミユも持ってみなよ、可愛いから」 急にそう言われ、小さな犬が私の胸にと渡される。 白くて柔らかい毛が暖かくて気持ち良かった。 なんにも考えてないような、その顔をむしょうに愛しく感じた。 どれくらい、そうしていただろう。 私の胸の中でその犬は寝てしまい、閉店時間とともに名残惜しむようにしてその場を去った。 ペットショップを出ても話題はつきなかった。 このまま、一日が終わるんだな、と夜の街を二人して歩きながら考えていた。 携帯に目を向けても、着信もメールも、ない。 彼が不思議そうに私を見ていた。 「なんか、さっきから元気がないね」 みすかされているようで、途端居心地が悪くなる。 「そんな事ない。すごく楽しいもん。だから、今日が終わってしまうのが、悲しい。修学旅行の最終日みたいな」言って笑った。彼もつられて笑顔を見せる。 半分、本当で 半分、嘘。 しばらく沈黙が流れた後、彼は切り出すようにして言った。 「そろそろ行こうか」 そう言って指指した所には、こじんまりとした、お洒落なホテルが見えた。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加