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そうは言っても、解らないものは解らないのだから、考えても仕方ないと思う。
能力を使い続けて一ヶ月。
実際、身体が痛むとか調子が悪いなどの症状は一切みられない。
ところで、“喧嘩に遭ったら逃げるが勝ち”思考だった僕が、どうして彼女に鍛えてもらおうなどと頼み込んだのか。
その理由は、能力の発現と共に蘇った、昔の記憶が原因だった。
妹と交わした、幼い日の約束。
果たすことの叶わなかった、大切な約束。
息子と娘が生き延びることを願った、本当のお母さん。
僕に助けを乞いながら死んでいった雷魅。
それを何も出来ずに眺めていた、ウソツキの自分。
十一年前の、思い出すと胸が押し潰されそうになる哀しい記憶。
僕が無力だったから。
僕に力があったなら。
或いは二人は助かったのではないか。
そして、僕と似た境遇だったあの兄妹も…。
退院してからも、僕はそんな自責の念に追われ続けていた。
それは最早どうにもならないこと。
過ぎ去った過去をいくら悔やんだところで、起きてしまった事実は書き換えられない。
過去を断ち切ることなどできない。
過去とは、その人間が人生を歩んでいく上で、一生背負っていかねばならないモノ。
鋼幽にそれを教えられたとき、思ったのだ。
それなら、もう二度とそんな過ちを繰り返さないよう、強くなろうと。
美鈴が言ってくれた、強くなろうという言葉。
それを果たす為にも。
それが、彼女らへ対する贖罪であると。
僕は、自ら血世茄に鍛えてもらうよう志願し、“黒火”という正体不明の能力を使いこなすに至ったのだ。
―――もっとも。
これでもかというくらい手を抜いた血世茄との手合わせは、一発たりとも攻撃を当てた例がないのだけれど。
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