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そうして、【春雷】の使用を禁ずるよう、厳重に注意を受けた後。
近くの自販機で購入した缶の紅茶を啜りながら、僕はベンチに腰を下ろしていた。
冷えたミルクティを喉の奥へ押しやると、広がる紅茶の甘みと冷たさが、鍛錬の疲労を癒やしていくようだった。
時刻は直九時。
予想通り大して気温は下がらず、生暖かい熱気が肌にまとわりつく。
「なんと。 ではその轟山とやらに、美鈴たちと旅行に行くわけか」
隣に座る血世茄が、ちっちゃな両手に握り締めたハーフサイズのペットボトルを傾け、ごくごくと喉を鳴らして飲み干す。
この蒸し暑さにも拘わらず、ペットボトルの中身はあたたかい緑茶。
…こんな幼い見た目でも、やっぱり立派なおばあちゃんなんだね。
「旅行じゃなくてキャンプ。 山ん中に泊まり込むんだよ」
「…旅行とどう違うのだ? 場所が山中になっただけではないのか?」
「どうって………自分たちで食事作ったり、キャンプファイヤーやったり、テント立てたり…? あ、でも、今回はロッジに泊まるから張らないけど。………あと、海」
「海? 山、なのにか?」
「………僕が聞きたいデス」
鍛錬の後は休憩がてら、こうして他愛もないことを話すのが日課になっている。
基本的には、学校でのことや美鈴のことを僕が話し、血世茄がそれに対して同意したり質問したり…といった流れ。
やはり長年の人生を送ってきただけあって、血世茄は聞き上手だった。
僕が話し終えるまでは、決して話の腰を折るようなことはせず、しっかり聞き終えてから口を開く。
唐突に自分の経験談を持ち出したりして、暗に話題をすり替えたりもしない。
僕も見習わなきゃいけないと思う。
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