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「ああ……」
壮絶な快感に吐息が漏れる。
最後に食べてから一週間。
ずっと限界を感じていたけど、これでまたしばらくは大丈夫。
そう、大丈夫だ。
これで今日みたいに、大好きな彼を“食べたい”なんて思うことはなくなる。
癖っ毛の髪に、黒縁のメガネをかけた、線の細い顔つきの彼を思い浮かべる。
騒がしくて下品だけど、本当は誰よりも優しくて、そして心に暗い闇を持つクラスメート。
彼が着替えを覗くなんて、今日が初めてのことじゃないけれど、それでもやっぱり、裸なんて見て欲しくなかった。
空腹のときにそんなことをされたら、勢い余って、彼を――――食べてしまうかも知れないから。
肉にかぶりつき、骨の髄までしゃぶり尽くして、その身体に流れる血を啜る。
光のスパイスが、きっと極上の旨味を引き立てて――――
「……………」
そこまで考えて、ようやく。
自分がおかしくなってることに気づいた。
落ち着いた筈の呼吸は、更なる餌を求めるかのように乱れたまま。
私はいつからこんな風になってしまったんだろう。
初めて人を食べたあの夜を、私は思い出そうとして――――
「――――、あ」
また、おなかが鳴った。「あ……ああ………」
タりない。
一人じゃ全然タりない。
周囲には、十一人の少年。
美味しそうな、血と肉と光のカタマリ。
私に食べてくれと言わんばかりに、みんな揃って顔をこっちへ向けている。
恐怖に顔をひきつらせて。 怯えるように後退りして。
………ああ、なんだ。
おかしいのはやっぱり、おなかが空いてるからなんだ。
この飢餓感を満たさない限り、私は狂ったまま。
だから食べないといけない。
人間にとって、食事はとても大切なことなんだから。
そう結論付けて、私は食事を再開するべく。
正気に戻るために、足を踏み出す。
足元に広がった血溜まりが、ぴちゃり、と音を立てた。
それは、静かな夏の夜。
腹の虫の呻きを聞きながら。
私は、ヒトを食べた。
◆【interlude out】◆
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