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健介の目は真っ赤に充血し、瞼の下には恐ろしいクマが出来上がっていた。
全然寝てないのだろう。 ピアスだらけの厳つい顔には、疲労が色濃く窺えた。
「むむっ!? こーんな美少女と朝早くから二人っきりでいられたのに、なにが不満なのかな健ちゃんは?」
「お前の家には鏡がないのか。 あと、寝言は寝て言えぶッ!?」
シートベルトの金具でこめかみを殴打された健介が、座席へ倒れ込んで動かなくなった。
「もー、健ちゃんたらいきなり眠り出しちゃって。 そんなに眠たかったのカナ?」
にこにこ笑顔で血痕のこびりついたシートベルトを振り回す、茶髪セミロングの幼なじみ。
……良かったね、健介。
これでしばらく寝てられるよ。 運が良ければ永遠に。
白目を剥いて熟睡(昏倒)する金髪ピアスから目を逸らす。
僕は全てを見なかったことにして、事前に知らされていた自分の座席へ移動した。
「27番は……と、ここだ」
中央より少し後ろの、窓側の席。
隣の席には、水色のボストンバックが鎮座しているものの、持ち主の姿は見えない。
一度荷物を置いて、また降りたのだろうか。
カバンの持ち主を思い浮かべて苦笑する。
居ないのならばありがたい。
別に彼女がキライなわけじゃないが、向こうに着くまでに散々弄られるのは目に見えているからだ。
「…ただでさえ隣同士とか気まずかったし」
小声で呟く。
が、その独白に対して、どういうわけか返事があった。
「なんとなんと。 本人の目の前で。 堂々とぶっちゃけるとは」
―――真上から。
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