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「ひっ…!?」
「朝一番でケンカ売られるとは。 まさかの展開。 あんびりーばぼー。 なかなかいい度胸。 小沢祐君」
「なななな、なにしてんだそんなとこで、キミは!?」
心臓がひっくり返るかと思った。
頭上の荷物棚から、見晴さんが顔を覗かせ、しかめっ面で僕を見下ろしていた。
「なかなかに快適だったり。 下の席は寒いから。 冷房の風が」
至って真面目に答える見晴さん。
だからって荷物乗せる場所に自ら乗るか。
水色の髪の不思議少女は、鋭い三白眼でジッ、とこちらを見返してくる。
相変わらずなに考えてるのか理解不能。
「…よっ」
身軽な動作で飛び降り、着地する。
―――視界がおかしくなった。
否、目の前の少女がおかしかったのだ。
彼女の異様な格好に、僕は思わず目を見張った。
「…………暑く、ないの?」
「私はとてもとても冷え性。 むしろ心地良いよ」
いつも通りの、毛糸のニット帽。
それだけならまだいい。
暑苦しいけどまだ許容範囲内。
だが今の彼女は、首もとにマフラー、丈の長い白のダッフルコートを羽織り、足には茶色のロングブーツという異様な出で立ちだった。
どこからどう見ても、冬真っ只中などっかの雪国の服装だった。
見てるだけで暑くなってくる。
体感温度が5℃くらい上昇したような。
「……これからスキーですか、見晴さん」
「遂に暑さにやられたか。 勝手に独りで行ってくるがいいよ」
冷たく告げて、抱きかかえたライオンのぬいぐるみをよしよしと撫でる。
「ほら。 がおちゃんもスキー場、もしくは病院行って来いって」
「……………」
反論しても勝ち目がないことは目に見えていたので、ツッコミとかその他もろもろをまとめて呑み込み、荷物を棚へ押し込む。
仏頂面で、しかし機嫌良さげに口笛を吹く見晴さんを横目に、ため息を一つ。
僕は自分の席に腰を下ろした。
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