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「ところで戸山さん、なんでここに? というか何故に硝霞を取り押さえてるんですか?」
三年生の戸山さんは、当然受験勉強があるため不参加だったはず。
「ピンクちゃんはですね~…期末試験で赤点とっちまったもんだから、今日から補習受けなきゃなんないのですよ」
「そ、そうなの?」
硝霞に訊ねると、気まずそうに視線を逸らされた。
どうやら図星らしい。
…意外だ。
美鈴があんな感じだから、てっきり硝霞も勉強できると思ってたのに。
「でもピンクちゃんのことだから、どうせ補習サボってキャンプへ逃げる魂胆だろうと踏んで、網を張ってたわけなのですよ。 さあさあ、学校で楽しくお勉強しましょうピンクちゃん」
「いやだあああああ! キャンプなんつー真夏の一大イベントを前にして退けるか! オレとセンパイのひと夏のアバンチュールを」
「ではでは皆さん、良い旅を~」
ニッコリ微笑むと、戸山さんは自称魔法少女をずるずる引きずり、車内から退散していった。
硝霞の悲痛な叫びが、徐々に遠ざかっていく。
「……………」
生徒一同、揃って沈黙。
皆呆然と顔を見合わせるばかり。
好き放題暴れて瞬く間に去っていった、台風みたいな女の子だった。
…はあ。 どうして狩人ってのはこう、兎に角個性的な輩が多いんだろう。
普通のはいないのか、普通のは。
ドサッとシートに腰を下ろす。
ケータイで時刻を確認すると、既に集合時間を十分も過ぎていた。
「美鈴…どうしたんだろ」
もしや、ここに来る途中何かに遭ったんだろうか。
『影』とか、光喰らいとか。
嫌な想像に、もやもやした不安が募り出す。
そのときだった。
こつ こつ
「…ん?」
耳元で、窓を叩く音。
小石でも当たったんだろうか。
そう思って、僕は窓の外に目をやり―――
「………、ぇ…?」
窓ガラスの外側に、小さな手が張り付いていた。
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