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月の明るい綺麗な夜だった。
十並市郊外に位置する、寂れた工業地帯。
時刻は深夜二時を回り、辺りは死んだように静まり返っている。
かつては様々な商品開発の為に使用されていたが、新都の発展に伴い、工場は次々に閉鎖されていった。
それら全ての建物が廃墟と化したのが五年前。
現在、駅から離れたこの地に立ち寄る者はそう居ない。
日中、浮浪者や柄の悪い学生たちが溜まり場として利用してはいるが、それも稀である。
周囲にコンビニ一つないこの地域では、屯するにも不便極まりないからだ。
――――そんな辺鄙な工業地帯の一画。
物品の収容所兼作業員の休憩所として使用されていた倉庫。
今ではそこいら中にガラクタが散らばり、喫煙スペースのベンチ、壊れた自動販売機や空のコンテナが幾つか残っているだけである。
その寂れた倉庫の中に、小さな明かりが灯っていた。
「…以上が先の交戦の結果っす。 正直バケモンとしか思えなかったですよ、あれは」
暗闇に反響する声。
天井から吊り下げられたランプが、倉庫内を薄暗く照らす。
コンテナが数台置かれた倉庫の中央。
声の主である赤い髪の少年が、ベンチを見下ろしながら忌々しげに舌打ちした。
倉庫には、少年の他に三人の人間――――否、光喰らいの姿があった。
「…ほう?『腐』の狩人亡き今、着目すべきは『獄炎』のみと思っていたが。 よもや奴らに匹敵する輩が、未だに健在とは驚いた」
少年の報告に応える声。
こちらも若々しさは感じるものの、幾分か大人びた、威厳に満ちた声色だった。
頭に当たる部分には影が落ち、どの様な顔立ちをしているのかは窺えない。
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