Chapter2

112/113
454人が本棚に入れています
本棚に追加
/232ページ
◆【interlude】◆ 嗚呼。 私はなんて幸せなんだろう。 色素の薄い真っ白な自分の手を引く、彼の大きな手のひらの温もり。 彼がいて、亜弥っちがいて、小沢祐君がいて、クラスのみんながいて。 そして、鈴っちがいて。 私なんかのことを“仲間”と呼んでくれた彼ら。 同じ存在として、対等に接してくれたクラスメート。 私を友達と言ってくれた、鈴っち。 初めて出来た、トモダチ。 独りぼっちだった私は、今、大勢の“友人”たちに囲まれている。 温かい。 とても、温かい。 ふと、違和感に気づく。 口元にそっと手を当てると、私は笑っていた。 あの日―――もう思い出すことすら出来ない、遠い昔の記憶。 笑顔を忘れてしまった私に、こうして再び、自然と笑える日が訪れようとは。 信じられなかった。 もしかしたら、夢でも見ているんじゃないか。 目が覚めたら、そこはいつもの、あの暗い暗い、座敷牢の中にいるのではないか。 そんな錯覚に捕らわれてしまうほど、今の私は満たされていた。 気が遠くなるくらいの、それこそ、永遠とも思えるほどの歳月。 七歳の誕生日。 全てを失ったあの日。 忌み子と蔑まれ、光の差し込まない、冷たい座敷牢に追いやられた私。 唯一の灯りは、蝋燭の微かな炎だけ。 一日に三度運ばれてくるだけの食事。 ボロ布同然の薄い毛布にくるまり、来る日も来る日も、寒さを凌いだ。 やがて私は、お日様の光も、温かいという感覚も、そして他者と触れ合い、笑い合う尊さも忘れていった。 両脚を拘束具で繋がれ、全ての自由を奪われた私は、ただ無為に時間を過ごしていくだけの存在だった。 それが、どうだろうか。
/232ページ

最初のコメントを投稿しよう!