Chapter3

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◆【interlude】◆ “俺”は彼女を愛することが出来ない。愛してはならない。 何故なら“俺”は、あの忌々しい兄の模造品。 殺人鬼と血を分けた、紛れもないアイツの兄弟なのだから。 尊敬していた。 兄のようになりたいと、ずっと思っていた。 小さい頃から、兄は“俺”の目標だった。 ――――香弥(かや)姉さんを。 想い人をその手で殺め、自ら命を投げ捨てた、あの日までは。 それは“俺”に対する裏切りであると同時に、“俺”の周りの世界全てが、真っ逆様に反転した瞬間だった。 家庭環境も、周囲から向けられる目も、何もかもが変わった。 年を重ねるにつれ、顔も声も体格も、何時の間にかあの男と同じモノに成長していく。 元々顔かたちの似た兄弟だったが、ここまでそっくりに育つとは思いもしなかった。 父も母も、近所の人間も、クラスの奴らや、アイツの友人だった連中も。 全員が“俺”に対して、アイツの面影を重ねる。 周りの人間から、人殺しの弟と罵られ、或いは哀れまれる日々。 いつも一緒にいた、幼なじみだけは違ったが――――それでも、これほど自分の体内に流れる血を憎んだことはない。 兄をこの世に生み出した両親を、“俺”は呪った。 仏壇に飾られた、奴の遺影を見る度に吐き気がした。 アルバムを開き、アイツが写っている写真全てを、一枚残らず切り刻み、焼き捨てた。 クローゼットの洋服を引き裂き、アイツが使っていた茶碗を叩き割り、小さい頃、誕生日に奴から貰ったくまのぬいぐるみに、ナイフを突き立てた。 家に残る、アイツの存在した痕跡を、一つ残らず抹消した。 アイツの行いによって、既に限界まで追い詰められていた母は、“俺”の行動によって、完全に精神を病んだ。 だが、そんなのは“俺”の知ったことじゃなかった。
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