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彼はペンキの剥がれたベンチに視線を下ろす。
微妙に錆び付いた長椅子には、ボロボロに擦り切れた白衣に朱袴を身に着けた、傷だらけの少女が横たわっていた。
年の頃は十六程だろうか。
髪は純白のショートヘア。 均等のとれた美しい顔が、薄明かりに照らされている。
だがその瞼は閉じられ、額には玉のような汗が幾重も浮かんでいた。
耳に届く脆鳴。 少女はしきりに胸を上下させ、荒い呼吸を繰り返す。
頬は啜れ、全身の至る所から鮮血が滲んでいる。
その様子からは、彼女がつい先程まで、何者かと交戦していた事が見て取れた。
「オレだって信じられねーですよ。 精々、高くても叉戌真レベルだって確信してたのに、まさかあんなに強ぇなんて」
「お前なりに見積もって、力量は如何程か」
「琉子サンをSとするんすから……限りなくSに近いA、ってところだと思います。まあ、彼女が負けたのは『紫煙』の援護があったからでもありますけど。 それでも亥断(いだん)サンと同等か、下手するとそれ以上かも」
少女を起こさぬよう、囁くように言葉を交わす二人。
が、そんな彼等の気遣いなどお構い無しに、もう一人の光喰らいが会話に割り込んでくる。
「クカカカカカッ!! なんじゃ? 儂と同等かそれ以上、と抜かすか琶酉(はとり)!?」
天井付近から響く愉快げな笑い声に、少年―――光喰らい琶酉は視線を向ける。
積み上げられたコンテナの上。
闇に包まれている為、姿を窺うことは叶わぬものの、その圧倒的存在感はひしひしと伝わってくる。
投げかけられた問いに対し、琶酉は落ち着き払った口調で返す。
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