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「そうっす。 亥断サンとはまた違った型でしたけど、少なくとも叉戌真より強い剣士だったのは確かっす」
「……剣士、とな?」
嗄れた笑い声が途切れ、亥断の口調が鋭さを帯びる。
「その『氷刃』とやらも、剣の使い手か」
「えぇ。 力で容赦なく叩っ斬るアナタに対して、あっちは速さと業で断つ、って感じでしたけど」
「エモノは」
「亥断サンと同じで日本刀ぶら下げてました」
琶酉の返答に、短い呻きを洩らす亥断。
それが失笑であると。果たして、この場に居る二人は気付けただろうか。
「クッ、カカカ、カーカカカカッ!! 愉快、愉快じゃのう!! まさか儂と肩を並べる剣豪があちら側にも居ったとは!! 何たる幸運よ!!」
一振りの風切り音。
闇の中。 月明かりを受けた美しい刀身が翻る。
亥断の悦びを表すかの様に、刀の切っ先は震えていた。
来(きた)るべき強敵との闘いに歓喜する同朋に、男は微笑を、琶酉は呆れた表情をそれぞれ露わにする。
―――その時。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! 畜生っ、畜生があああああああああ!!!」
凄まじい罵声が薄暗い空間を震わせた。
何事かと倉庫の入口を見やる三人。
そこには、巨大な剣を携えた長身の覆面男。 それに襟首を掴まれ引きずられている、長髪の青年の姿があった。
「…………只今帰還した」
ぼそり、と短く呟く覆面の男。
灰色の外套を翻し、落ち着いた足取りで琶酉たちの元へ歩み寄る。
ずるずると。 青年の身体を、厄介な荷物のように引きずりながら。
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