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幾ら油断していたとは言え、人間の少年に敗北したのだ。
元より短気な性分である。
そんな彼が、御礼参りを禁じられたばかりか、剰(あまつさ)え呑気に休息していろと告げられたのだ。
言い分は明らかに向こうが正しいが、それで納得出来る程、巳零は穏やかでもなければ素直でもなかった。
「その身体では無理というもの。 その状態で万が一狩人の連中に遭遇すれば、命はなかろう? 光喰らいとしての己が役目、失念するでない」
だが、巳零の訴えを、男は冷静に否定する。
それは彼なりの気遣いであり、同朋を想う優しさでもあるのだが、憎悪に身を焦がす青年には、その想いが伝わらない。
「知ったことか!! ここまでコケにされて黙ってろってのか? あァ!?」
「口を慎め、巳零。 この御方を何方と心得ている」
叉戌真が窘めるが、一度火の点いた彼が止まることはなかった。
様々な罵倒の言葉を繰り出し、それに比例して男の顔が険悪になっていくことに巳零は気付かない。
「ふざけやがって! チンタラ休むなんざ真っ平だ! オレは今すぐ殺」
「巳零よ」
「あァン? なンだよ、文句でもあるっての――――――」
瞬間。
巳零の両腕に、無数の穴が空いた。
「………、は?」
呆然と自分の腕を見下ろす巳零。
鍛え抜かれた二の腕は、刃物で貫かれたかのように、幾重もの貫通した痕があった。
突き破られた皮膚と細胞の隙間から、どす黒い鮮血が泉のごとく溢れ出す。
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