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彼女は狭いスペースとボリュームのあるスカートに四苦八苦しながら、おとなしく座った。
ちなみに俺も座ったが、体が玄関にはみ出している。
6畳の部屋に、パイプベッドとカラーボックスが一つ。
そのカラーボックスの上に、14インチのテレビが乗っている。
歩美ちゃんといる時は、ここまで狭さを感じなかったな。
「あの、俺……三橋源太(みつはしげんた)っていいます。あなたは?」
とりあえず、名前だ。個人情報だ。
名前を知れば、他人から知人ぐらいにはレベルアップできるだろう。
「楠(くすのき)カスミです。源太さんですか。いい名前ですね」
そう言うと、カスミはにっこりと笑った。
「え?あ、ありがとう……」
社交辞令と思っても、こんな風に言われたら悪い気はしないものなんだな。
昔から『源太とか、昭和初期?』なんて、チマチマいじられたりしていたから。
「あの……。結婚式、あれでいいの?」
「えぇ。だって、あの人の事……愛しているわけじゃないから」
笑顔が消え、力強い目で俺を真っ直ぐに見た。
歩美ちゃんと同じだ。
今の世の中、好きでもないヤツと結婚式を挙げるのが流行りなわけではないはず。
偶然の一致に、複雑な気持ちになった。
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