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カスミは肘まである白い手袋を外し、膝の上で握っていた。
かなりの力が入っているのがわかる。
「私、ずっとお父様の望む通りに生きてきた。でも、苦しかった……。
男の人と接するのも、パーティーぐらいだし。
友達も格の違いがどうのって、遊ばせてもらえなかった。
今時、携帯電話だって持った事がないのよ?携帯電話は害があるって言って。
私、普通に生きたいの。このままじゃ私、ただのマリオネットだもの」
強く言い放つ言葉には、揺るがない意志が感じられた。
「ちょ……。も、もしかして、いいとこのお嬢様?」
パーティーとかお父様とか、一般家庭とは思えない。
「そうだと思います。クスノキグループの社長がお父様。おじい様が会長。
本社は東京ですがね。
あの人はこっちの支社長の甥なの。私が嫁ぐから、こっちで式を挙げることになったんです」
状況を説明する時は、敬語に戻るんだな。
などと、重要な事を考えるのを拒否する脳がいる。
だって俺は、今まで平々凡々に生きてきた。
お金持ちのお嬢様など、どこぞのB級小説の中だけにしか存在しないと思っている。
それがどういうわけか、俺の目の前にいやがる。
しかも、ありえない出会い方で出会ってしまった。
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