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「電話あります?お父様に連絡を取ってみます」
カスミは再び敬語で言う。
「いや、でも……。今連絡したら、連れ戻されちゃうんじゃない?」
出た。偽善者な俺。
そんな事を気にせず、自分の立場ってものを心配すべきだろ。
そんな気持ちはあるものの、敬語ではないカスミの一言一言が心に沁みているのも事実。
「……かもしれない。けど、源太さんに迷惑がかかるのを阻止しなければなりません。
このまま居たい気持ちはあります。
ですが、源太さんを犯罪者にはできませんもの」
若干引きつった笑顔が、少し痛々しく見えた。
俺は黙って携帯電話を差し出し、カスミを見守ることにした。
「番号、わかるの?」
「えぇ。よく掛けるところは覚えてます」
カスミは携帯電話を開き、ためらうことなく番号を押していく。
そういえば、ガキの頃は友達の電話番号は全部覚えていたよな。
携帯電話が当たり前の今の時代、電話番号を覚えている方が異質に見える。
だが、ほんの十数年前なんて、頭に番号をインプットするのが当たり前だったんだ。
懐かしい時代を思い出しながら、14インチのテレビをつけた。
音は最小限に、聞き耳を立てているのがバレないように、テレビに集中しているふりをする。
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