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今、ファミレスでコーヒーをいただいている。
カスミの父親を待っているのだ。
カスミが言うには『あの男に会わせろ。会わせるのなら、我が儘を聞いてもいい』とのこと。
確実にヤキが入りそうな予感。
逃げようかとも思った。
だが、敵は大企業の社長。俺が逃げてもありとあらゆる手を使い、あっさりと捕獲されるだろう。
しかも先ほどの電話で、携帯番号を知られてしまっている。
それと、少しだけカスミに同情する気持ちもある。
歩美ちゃんと似た状況だから、余計にそう思ってしまうのだろう。
『お父様』は無理矢理にでもカスミを連れ帰るはずだ。それを見届けるのと同時に、こうなった経緯も説明すべきとも思う。
しかしなぁ……。
歩美ちゃんはどこに行ってしまったんだろう。
窓の外をぼんやりと眺め、溜め息を吐いた。
「来たわ」
ぼんやりとしていた俺に、カスミが囁く。
反射的に入り口に目を向けると、俺達に向かって歩いてくる紳士が見えた。
カスミの父親は、カスミを見てにわかに安堵の眼差しになった気がする。
次に俺を見て、険しい顔をした。
俺は咄嗟に立ち上がり、カスミの父親に一礼した。
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