さよならですか?

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「待たせたね。ナビはあっても土地勘がないものだから、少し迷ってしまった」 電話での錯乱状態とはうって変わって、静かだが威圧感のある喋りだ。 これが大企業のトップの人間か。 「お父様、とりあえず座って?」 蛇に睨まれた蛙状態の俺は、カスミの父親が座った後もしばらく立ち尽くしていた。 俺の服の裾を、カスミが軽く引っ張る。 それでやっと座る事ができたぐらい、この『お父様』のオーラにやられてしまった。 怖さも不安もあるが、同じ男だからわかる。この男は、きっと素晴らしい人だ。 「さて……。話を聞かせてもらおうか」 テーブルの上で手を組み、強い眼差しでカスミと俺を交互に見る。 チラリと横目でカスミを見るが、父親に負けないぐらいの眼力。 さすが、親子だな。 「私は電話で話した通り。お父様に、私の気持ちがわかる?私の人生が、私のものではない気持ちが」 「父さんは、お前に幸せになって貰いたいんだ。カスミには、父さんの気持ちがわからないのか?」 しばらく、そんなやり取りが続いていた。 俺は完全にカヤの外。 カスミの『帰らない気持ち』と、父親の『連れて帰る気持ち』がぶつかり合う。 そして、やはり親子。 どちらも頑固だ。
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