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俺の予想では、一発目から怒鳴り付けられるはずだった。
拍子抜けしつつ、最後の一滴になったコーヒーを煽った瞬間、矛先がこちらに向いた。
「そもそも、君は誰なんだ?何であんな事をしたんだ」
その疑問、ごもっともです。
カスミからその疑問が出なかった事が不思議なのだ。
「あの……。簡潔に伝えますと、人違いです」
細かく説明するとくどくなると評判の俺だから、一番重要な部分だけを答える。
「ならなんで、ついて行ったりするんだ?」
今度はカスミに疑問を投げる。
そこは俺も気になるところだ。
「だって……。王子様に見えたから……」
乙女の発言に、カスミの父親と思わず目を合わせて首を傾げた。
思いもよらず息の合った行動をしたためか、カスミの父親は小さく咳払いをする。
「私の意思だけじゃ、どうしても勇気が出なかったから……。
何度も何度も、逃げ出してやろうって考えてた。
でも、結婚が決められて……。来世の人生にかけるしかないのかなって、諦めかけてたの。
それでもね、心のどこかで『何かの映画のように、私をさらう人がいたらいいな』って思ってた。
だから、源太さんと逃げたの」
そう思う事も、カスミにとっては無謀だっただろう。
何せ、彼氏どころか、男友達すらいない……と推測されるからだ。
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