さよならですか?

4/10
前へ
/213ページ
次へ
俺の予想では、一発目から怒鳴り付けられるはずだった。 拍子抜けしつつ、最後の一滴になったコーヒーを煽った瞬間、矛先がこちらに向いた。 「そもそも、君は誰なんだ?何であんな事をしたんだ」 その疑問、ごもっともです。 カスミからその疑問が出なかった事が不思議なのだ。 「あの……。簡潔に伝えますと、人違いです」 細かく説明するとくどくなると評判の俺だから、一番重要な部分だけを答える。 「ならなんで、ついて行ったりするんだ?」 今度はカスミに疑問を投げる。 そこは俺も気になるところだ。 「だって……。王子様に見えたから……」 乙女の発言に、カスミの父親と思わず目を合わせて首を傾げた。 思いもよらず息の合った行動をしたためか、カスミの父親は小さく咳払いをする。 「私の意思だけじゃ、どうしても勇気が出なかったから……。 何度も何度も、逃げ出してやろうって考えてた。 でも、結婚が決められて……。来世の人生にかけるしかないのかなって、諦めかけてたの。 それでもね、心のどこかで『何かの映画のように、私をさらう人がいたらいいな』って思ってた。 だから、源太さんと逃げたの」 そう思う事も、カスミにとっては無謀だっただろう。 何せ、彼氏どころか、男友達すらいない……と推測されるからだ。
/213ページ

最初のコメントを投稿しよう!

771人が本棚に入れています
本棚に追加