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運転をする時は『急』がつくものはいけません。
教習所で習った決まり事を、今日はじめて破った。
無言の車内で、気持ちを落ち着ける。何かがおかしい。
むしろ、隣の新婦が歩美ちゃんではないのは……実は、もうわかっている。
だって、とびきりの美人だし。歩美ちゃんより小振りな胸、細い二の腕。
現実逃避はこの辺にして、現実を直視し、尚且つ分析すべきなのだ。
あの教会で式を挙げているのは、歩美ちゃんだったはず。
それが違った事は、なんとか理解してもいい。
問題なのは、新婦が歩美ちゃんではないのに、計画がうまくいってしまった事なのだ。
俺が気付かなかっただけで、相手は俺を知っていたとか?
しかも、俺に恋心を抱いていて……うんぬんかんぬんで、なんたらかんたら?
なんて適当な妄想に逃げていた時、彼女が口を開いた。
「あの……。巻き込んでごめんなさい」
「え!?いや……」
巻き込んだのは俺の方のような、そうでないような、何とも奇妙な状況ですよ。
心の中でそう続けた。
どうやら俺は、自分が感じている以上に動揺しているらしい。
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