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その夜は、怖いぐらい暗かった。地震によって発電所が破壊されたために、東京中の建物の明かりが、消えている。大きなホテルや病院、政府関係の建物などは自家発電によって電気が点いているが、それ以外の明かりはなかった。星の光や月光までも上空を覆う火山灰によって消えてしまった。
それは、東京に限ったことではなかった。日本……いや、今この時間、夜を迎えている世界中の国々は、暗闇に閉ざされていた。
避難所に避難している都民は、静かに、割り当てられた場所から、焚火によって燃え盛る炎を見つめていた。この火が、彼等の、唯一の明かりであった。
その炎に照らせれている人々の顔には、疲れと、不安の表情が浮かんでいた。その顔は汚れ、生気を失っているようにも見える。人々は、“希望”を無くしてしまっていた。しかし、人々の唯一の心の救いとなっているものがある。
子供たちだった。まだ幼い子供たちは、焚火の周りで、楽しげな表情を浮かべながら遊んでいた。人々は、その子供の無邪気な笑顔を見ると、ホッとするのだった。
時刻は午後8時過ぎ。最後の夜は、まだ始まったばかりである……。
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