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CDを何度も聞いて覚えた歌。楽譜は読めないから、耳で覚えた。ちょっとくすぐったい歌詞に、ロックな曲調。普段ゆったりとした曲ばかり聞いていたから、新鮮だった。
トムのギターが、私の中にすっと溶け込む。ロックなのに、私を包み込むような優しい音色を感じるのはなぜだろう。
――たのしい。
歌うことが、たのしいと思った。
「……ぷこ」
曲が終わり、ぼうっとしている私の頭をトムが撫でる。
「あ、ごめん。浸ってた」
トムを見上げ、苦笑い。すっかり歌うことに夢中になっていたなんて、ちょっと恥ずかしい。
「ちょっと、2人の世界に入らないでくれる?」
エナちゃんが楽譜を丸め、手の上でポンポン叩く。
「これは盛り上がる曲だから、もう少しテンポ早く歌えるように。ちょっと遅かったわよ、ぷこ」
「わかった」
片手をあげ、エナちゃんの言葉に頷く。
「ショウくん、いつまでぷこの頭撫でてるんです? 髪フェチ? 変態? それともす」
「べ、別に」
畳み込むようなエナちゃんの言葉を、慌てて遮るトム。その手は私の頭の上からいなくなった。
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