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警官一族、ボーベルマン家。
この国でも指折りの名門貴族である。生まれた時から警察官になることを義務づけられ、一般教養から護身術、実戦訓練まで幼い内に叩き込まれる。
「何かしてやりたいなんて思うな。何もしてやれないのだから」
よく警視総監だった祖父が言っていた。いや、警視総監だった父だっけか。
その通りだと思う。
じゃあ何で、俺は同じように警官なんてやってるんだ?
「はぁ…」
「どうかしたのか」
警察署の机に肘をつき、グレイスは溜め息をつく。
「いや、気にしないでくれ」
同僚の気遣いを軽く受け流し、また仕事に取りかかることにした。
グレイス・ド・ボーベルマン。ボーベルマン家の現当主である22歳の青年。堅い表情に鋭い目つき、厳しい言葉で犯罪者と女性たちを痺れさせている。
家柄によって出世をするのを拒み、今は他の新人と共に雑用ばかりの毎日だ。
一時間ほど仕事に取りかかり、グレイスはまた手を止めた。
先輩がいないのを良いことに、同僚たちは皆どこかへ行ってしまっていた。部屋には彼一人。
立ち上がって伸びをし、彼も息抜きに出掛けることにした。
受付の婦人警官らに会釈をし、(背中に黄色い声を浴びながら)外に出た。
快晴の、気持ちよい風が吹く日だった。全てが都市の美しさを引き立てるようだ。
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