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酉&未←卯(+巳
「おら!何とか言えよっ!未来ぃ!」
「っは!卯宮のことがこわいじゃない?びくびく震えてるしィー?可愛いねぇ」
「…っ」
また、だ――
いつも俺に寝床を提供してくれている太い木の枝の上から、目の端で繰り広げられている暴力を眺める
この場所にいると最近頻繁に聞くことの出来る音、声
いじめっ子と、いじめられっ子
虐めている方は知らないが、虐められている方は何度か目にしていた
確か、隣のクラスの…
未来、と呼ばれたいじめられっ子はいつもいつも蹴られている間も声も出さなければ反抗もしようとはしない
――気になった
いつもなら他人に興味なんか沸かないのに、毎日毎日、その奇異な光景を眺めている内に俺は確かにあいつのことが気になっていた
いじめっ子の二人が去ってしばらく
俺は木の幹に凭れ、うずくまって鳴咽を噛み殺しているそいつの前に枝から飛び降りた
「……!?」
瞬間驚いて面を上げるそいつの顔に傷はなく、でも目が泣いて赤く腫れているのを見て、気まずさに目を背ける
「……酉井くん…?」
「……俺の名前、知ってるのか」
「…うん」
涙を拭いて、俺を安心させるように無理矢理笑い、俺の座る場所を開けるために体をずらしたこいつを見て、そこに静かに座る
制服は砂に塗れていて
破れたシャツから見える肌に青く滲んでいる箇所がいくつもあるのを見て、俺は顔をしかめて口を開いた
「……何とも思わないのか?」
「ぇ?」
驚いたように俺を見つめるその瞳は何の汚れもなく、澄み切っている
「やり返したいと、思わないのか?」
ぱちぱち
瞬きを繰り返す
そしてこいつは体育座りをした腕に顎を乗せて
「……いいんだ」
穏やかな表情で、
それでも何かを諦めているような表情で、小さく呟いた
「これくらい、何ともない。
一番辛いのは、……無関心になられることだから…」
「………」
酷く儚く、今にも消えてしまいそうな弱々しさ
胸が痛く、張り裂けそうになった
「ありがと。僕のことなんか心配してくれて。酉井くんって優しいんだね」
ふわり、
風に撫でられる柔らかな羽のように嬉しさを笑顔に込めた未来に
俺は何故か無性に弱いこいつを
――守ってやりたいと、思っていた
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