赤い靴のお姫様

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喜んでもらえると思っていた幸介にとって、芽衣の放った言葉は意外なものだった。 「え?」 「あなたはここの社長になる人でしょ。私なんかのために、そんなチャンスを棒にふるなんてバカみたい・・・」 芽衣は自分の気持ちを抑えて幸介のためを思いそう言い放った。 「そんなことはないよ。僕はちゃんと考えて決めたんだ」 「嘘よ!あなたと私は最初っから住んでる世界が違うのよ!所詮私は掃除婦なのよ!パーティーでいくら着飾ったって、いつもは地味な服に汚い靴を履いてるような女よ・・・私のせいで社長を諦めるなんて言わないで!!」 会場は静寂に包まれる。芽衣の声だけが会場に響き渡った。 「言いたいことはわかった。だからステージにちょっと上がってきてくれないか。渡したいものがある」 芽衣は言われるがままにステージへと上がった。 「あの子、なんでまたあの汚い靴はいてるの?だめって言ったのに・・・」 レイラはそれをみてがっかりする。周りの人々から見ても白のドレスに真っ赤な古びた靴のバランスは明らかにおかしかった。 芽衣が幸介の前まで来ると、準備していたかのようにホテルマンが一つの箱を持ってきた。幸介がステージの真ん中でその箱を開け、芽衣の足もとに置いた。 「こ、これ・・・」 芽衣の眼に飛び込んできたのは、今まで何度も何度も眺めてきた青白い輝きを身にまとい、美しく光る憧れのハイヒールだった。 「この靴・・・」 「君がずっと欲しいって言ってた、あの靴だよ」 幸介は芽衣の話を聞き、サプライズでこの靴を芽衣のために買っていたのだった。 「君にこれをプレゼントする」 「あの駅前通りのショーウィンドウに飾られてた靴?」 「そう、ちょうど最後の一足だったんだ。さあ」 芽衣は、古びた赤い靴を脱ぐと、言われるがままにその靴に足を通した。サイズは見事にピッタリであった。 「良かった」 会場からは拍手さえ起こった。芽衣にマイクが渡された。 「ありがとうございます。でも、この靴は受け取れません・・・」 また会場がどよめいた。
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