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それから、幸介は結婚を断り、社長の話もなくなった。社長には他の人物が就くことになったが、幸介はコネではなく実力で成り上がろうと、努力の日々を続けていた。芽衣は幸介の会社の正社員として受付業務の仕事の誘いがあったが、今はもっと掃除を頑張り、みんなの働く場所をキレイにして、みんなに幸せな気持ちで働いてもらいたいという理由で断っていた。そして、その掃除の仕事で芽衣は先輩になっていた。新しく入った後輩はなんと亜莉沙であった。課長との浮気がバレ、会社をクビになり、困っていたところを芽衣が紹介してあげたのだった。亜莉沙もまた、やり直そうと芽衣のもとで一生懸命働いていた。
数か月が経ち、芽衣は地元に帰り、祖母の病院を訪れていた。
「おばあちゃん、元気だった?」
「おかげさまで元気だったよ」
「良かったぁ。ケータイも壊れて番号消えちゃったから、ずっと連絡も取れなかったの。ごめんなさい」
「いいんだよ別に。芽衣が元気であってくれれば私はそれで」
祖母がふと下に目をやると、芽衣は自分があげた赤い靴を履いていた。
「あんた・・・その靴、まだ履いてたのかい」
「もちろんよ。だっておばあちゃんが買ってくれた大事な靴だもん」
「でも、もうボロボロじゃないか」
その靴は芽衣が成人式の時に祖母からプレゼントされたものだった。そして、このプレゼントをもらったすぐ後から祖母の体は悪くなり、ずっと入院していたのだった。
「だって、この靴毎日履いてたら、おばあちゃん元気になるかなって思って」
「本当にあきれた子だよあんたは。そのためにずっとこの靴を何年間も履いていたのかい」
そう言って2人は笑った。
「実はね、芽衣、おばあちゃん今月で退院できることになったんだよ」
「ホント?ねぇ、おばあちゃん、それホントなの!?」
芽衣は病院にも関わらず、大きな声で喜んだ。
「ああ、だからもう私のために稼いだりなんかしなくていいからね。あんたは自分のためにお金を遣いなさい」
芽衣は東京で稼いだほとんどのお金を生活費以外は祖母の医療費に当てていた。
「うん。わかった」
「もうこっち帰ってきたっていいんだよ。東京の生活も疲れただろ」
芽衣は祖母の顔を見て微笑んだ。
「そんなことないよおばあちゃん、私もう少し東京で頑張ってみる」
その芽衣の堂々とした顔を見て祖母は安心した。
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