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悠さんは、しばらく俺を見つめたあと、携帯電話を取り出した。
「もしもし…うん、私。ちょっと、来てもらえるかな…。」
細い指が通話終了ボタンを押す。そして一呼吸置くと、言った。
「狩野さん。私もあなたのことが好きです。」
その言葉に俺は素直に喜べなかった。悠さんが俺を見る瞳が、悲しげに揺れていたからだ。
「でも、あなたとはお付き合いできないと思います。」
悠さんの瞳から涙が零れた。
俺は、ポケットからハンカチを取り出して、彼女に差し出す。
悠さんはそれを受け取らず、涙を零したまま、俺を見つめていた。
しばらく時がたち、ノックの音が静寂を割いた。
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